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治療のための栄養

栄養の影響を受けやすい健康状態の犬・猫のニーズに関する有用な情報。

脳と認知機能の障害

犬の認知機能障害症候群

犬の認知機能障害症候群は、人間のアルツハイマー病に似た加齢に伴う変性代謝性脳疾患です。加齢にとともに、脳に代謝的、機能的、構造的な複合変化が起こり、重症化すると認知機能障害症候群となります。臨床的な徴候は記憶、注意力訓練の問題、方向感覚の喪失、睡眠・覚醒サイクルの変化、社会性の低下などを含みます。認知機能障害症候群の有病率は犬の 14 %~35 % と推定され、有病率と重症度は年齢とともに増加します。認知機能障害症候群は治癒不可能ですが、標的を定めた栄養を含む多方面からの管理アプローチが、徴候の管理とさらなる進行を抑えるのに役立つ場合があります。

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キーメッセージ


  • 加齢に伴い、脳には代謝的、機能的、構造的な変化が起こり、認知機能障害症候群を引き起こす場合があります。
    • 健康な脳はブドウ糖を主なエネルギー源としていますが、老犬の脳はブドウ糖の代謝効率が低下し、脳のエネルギー枯渇を招きます。認知機能に重要な脳の領域で、ブドウ糖代謝が最も低下します。
    • 加齢に伴いフリーラジカルの産生が増加し、内因性抗酸化物質のレベルが低下することで、酸化ストレスが生じ、細胞が傷つけられます。
    • 炎症誘発性化合物のレベルが上がると、慢性的な低レベルの炎症状態になります。
    • 脳の血管は、加齢により傷つき、血管壁が厚くなることがあります。そのため、脳血流が減少し、脳細胞へのエネルギーと酸素の供給が減少します。
    • ビタミン B 群は、ブドウ糖の代謝や神経伝達物質の生成など、多くの代謝反応に関与しています。ヒトでは、ビタミン B の欠乏と高齢者の認知機能障害との関連性が研究で示されています。
  • これらの変化を標的とする栄養戦略は、犬の認知機能障害症候群の徴候を管理し、さらなる進行を遅らせるのに役立つ可能性があります。
    • 中鎖脂肪酸トリグリセリド(MCT)は、脳に代替エネルギー源(ケトン体と中鎖脂肪酸の両方)を提供することができます。脳のエネルギー需要の 60~70 % はケトン体によって供給することができます。
    • ビタミン C や E のような抗酸化物質は、酸化ストレスの軽減に役立つ可能性があります。
    • オメガ-3 系脂肪酸である DHA や EPA には抗炎症作用があります。
    • 一酸化窒素の前駆体であるアミノ酸のアルギニンは、脳血流の改善を助ける可能性があります。
    • ビタミン B 群は、脳の健康をサポートする可能性があります。ビタミン B 群の欠乏は人間の認知機能障害と関連していますが、さらなる研究により、欠乏を防止するために必要なレベル以上の補給は、認知機能への効果がある可能性が示唆されています。
  • Purina の研究では、認知機能障害症候群の犬に MCT オイル、オメガ-3 脂肪酸、抗酸化物質、アルギニン、ビタミン B 群を独自にブレンドした食事を与えたところ、30 日以内に DISHAA の 6 項目中 5 項目が、90 日以内に 6 項目すべてが有意に改善されたことが報告されています。
カンバセーション・スターター

「あなたの愛犬は認知機能障害症候群です。治療法としては、栄養学的介入などがあり、症状の管理や進行の抑制に役立つ可能性があります。6 ヵ月ごとに DISHAA 評価フォームに記入することで、ペットの状態を把握することができます」

ペットの飼い主と共有するには:

DISHAA 評価ツール

犬の認知機能をモニタリングするための便利なツールです。

追加のリソース

Pan, Y., Landsberg, G., Mougeot, I., Kelly, S., Xu, H., Bhatnagar, S., Gardner, C. L., & Milgram, N. W. (2018). Efficacy of a therapeutic diet on dogs with signs of cognitive dysfunction syndrome (CDS): A prospective double blinded placebo controlled clinical study. Frontiers in Nutrition, 5. doi: 10.3389/fnut.2018.00127

Dewey, C. W., Davies, E. S., & Wakshlag, J. J. (2019). Canine cognitive dysfunction: Pathophysiology, diagnosis, and treatment. Veterinary Clinics of North America: Small Animal Practice, 49, 477–499. doi: 10.1016/j.cvsm.2019.01.013

Landsberg, G. M., Nichol, J., & Araujo, J. A. (2012). Cognitive dysfunction syndrome: A disease of canine and feline brain aging. The Veterinary Clinics of North America.Small Animal Practice, 42, 749–768. doi: 10.1016/j.cvsm.2012.04.003

Kennedy, D. O. (2016). B vitamins and the brain: Mechanisms, dose and efficacy—A review. Nutrients, 8(2), 68. doi: 10.3390/nu8020068