
腎臓と泌尿器の疾患
CKDの猫における水分補給の重要性

Jessica Quimby
DVM, PhD, DACVIM
准教授、
オハイオ州コロンバス市
オハイオ州立大学
小動物内科学 獣医臨床科 准教授
脱水は慢性腎臓病(CKD)によく見られる合併症で、食欲不振、傾眠、衰弱、便秘、急性腎不全のリスクの増加をもたらすことがあります。1 また、腎臓に悪影響を及ぼす病態生理反応を引き起こす可能性もあります。
脱水のリスク
体が脱水を感知するといくつかの生理的反応が起こり、慢性的な無症候性の脱水が代償作用をもたらし、最終的に腎臓に悪影響を及ぼす可能性があります。これらの病態生理学的作用には下記が含まれます:
- バソプレシンの放出は、集合管の細胞膜上の水の通過チャネルの発現を増加させることで、水の再吸収を促す働きをします。2 その結果、糸球体内圧が上昇し、タンパク尿や全身性高血圧を発症する可能性があります。2
- レニン-アンジオテンシン-アルドステロン系(RAAS)の活性化は、腎疾患の病態生理と進行におけるもう 1 つの重要な要素です。3 通常は保護的に働くRAASは、血圧、体液や電解質バランス、全身血管抵抗の調節を行いますが、CKD の患者ではRAASを活性化させることは望ましくありません。
- 血行不良は、線維化や血管の損傷によりすでに影響を受けている腎臓では、組織レベルでの低酸素状態を悪化させる可能性があります。
脱水を治療することは、バソプレシンの分泌を減らし、RAAS の活性化を抑え、血流を促進することにより、腎臓に良い影響を与える可能性があります。
CKDの猫の水分補給のために
CKDの猫の飼い主が猫の水分を適切に保つためには、次の方法が役に立ちます。
1.飼い主に水分補給について啓発する:併発疾患、嘔吐、下痢などを含め、猫の脱水症状をモニタリングする方法を説明します。猫が水を飲むことを拒むような家庭内のストレスを取り除き、十分な水を与えるように助言します。特に高齢のCKDの猫では、これらの徴候に気づいた場合、迅速な対応が必要になる場合があることを理解してもらいます。
2.水分バランスへの対処:ドライフードの代わりにウェットフードを与えたり、食事に水を加えたり、新鮮な水を常時用意することを推奨します。皮下点滴用の輸液に含まれる過剰なナトリウム投与を避けるため、自由水(経口または栄養チューブ)の補給を推奨します。
3.便秘の改善:CKDに伴う便秘の原因は水分バランスのが上手く保たれていないことが根底にあると考えられるため、他の内科的治療を行う前に水分補給に対応する必要があります。カリウムの欠乏も確認し、対応する必要があります。その後は、補水液の給与が便秘の改善に役立ちます。サイリウムのような食物繊維を加えることも有効な場合があります。
腎臓疾患では、水分維持が重要な治療目標のひとつになります。腎臓病患者の水分バランスの状態を注意深く評価することで、獣医は適切に治療を行うことができます。
参考文献
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Feehally J, Khosravi M. Effects of acute and chronic hypohydration on kidney health and function. Nutr Rev 2015;73 (Suppl2):110-119.
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Torres VE. Vasopressin in chronic kidney disease: an elephant in the room? Kidney Int 2009;76(9):925-928.
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Siragy HM, Carey RM. Role of the intrarenal renin-angiotensin-aldosterone system in chronic kidney disease. Am J Nephrol 2010;31(6):541-550.