演習シナリオ

ティガーの診察:多尿、多飲、不適切な場所での排尿のあるシニア猫

ティガーの診察

10 歳、去勢手術済みのオス、室内飼い、短毛種

  • ほぼ室内飼いの猫ティガーは、2 日ほど前から不適切な場所で排尿をするようになったため、受診しています。飼い主の話では、通常ティガーは 2 つある猫用トイレのどちらかで用を足すのですが、最近になって汚れた服が入った洗濯カゴの中に排尿しているのが見つかりました。また、トイレを確認すると尿による猫砂の塊が増えており、ティガーが水を飲む回数が増えたと言います。 
  • 飼い主は、管理した量のドライフードをティガーがいつでも好きな時に食べられるような形で与えるとともに、ウェットフードを 1 日 2 回与えています。ティガーはエサの好き嫌いが激しくなり、ここ 1 ヵ月はときどき嘔吐していたと言います。
  • 身体検査では、ティガーは快活かつ敏捷で反応も良好であり、ボディコンディションスコアは 9 段階の 5、筋肉量も正常でした。腹部触診では、左腎臓が小さく(右腎臓は触診不能)、中等度の膀胱拡張はあるが痛みはないようです。それ以外の検査所見に特筆すべき点はありません。
  • 膀胱穿刺により採取した尿の初期評価では、尿比重が 1.025、タンパク尿なし、尿沈渣異常なし、pH 6.4 という結果が出ました。それ以外の結果は正常値の範囲内でした。血液検査(全血球数、血清化学検査、総サイロキシン)の結果は正常範囲内でしたが、総サイロキシン値が参照値範囲の上限に達しています。

腎臓と泌尿器の疾患

猫の特発性膀胱炎

獣医師を訪れる猫の 3~5 %が猫下部尿路疾患(FLUTD)であるとの研究報告があります。FLUTD は、膀胱と尿道に影響を及ぼす疾患群で、ストレス、飲水量の少なさ、過体重、運動不足、屋内への閉じ込めなど、多くの要因があり、再発しやすい傾向があります。特発性膀胱炎は最もよく見られる FLUTD で、症例の 55-65 %を占めています。栄養は、この複雑な疾患を管理し、再発のリスクを低減するための多角的な戦略の一部となり得ます。

猫の腎臓のアイコン

キーメッセージ


  • 治療食は、水分摂取量と尿量を増やし、より希釈された尿を促すことで、特発性膀胱炎の管理および再発リスクの低減に役立ちます。
    • 希釈尿では、膀胱の内壁を刺激する物質の濃度が低くなります。また、尿の量が増えれば排尿回数も増え、これらの物質が炎症を起こす前に排出されるようになります。
      • FLUTD の管理には、希釈尿の排泄を促すことが推奨されます。
  • 特発性膀胱炎やその他の FLUTD の猫には、次のように水の摂取量を増やすことが有効な場合があります。
    • ウェットフードを与えるか、ドライフードに水を加えて与える。
    • ペットの好みに合わせて、異なるタイプの水分補給場所(容器に入った静水、ファウンテンなどの流水)を用意し、タイプの異なる容器(プラスチック製は避ける)を使用する。 
    • 特別に調整し、栄養を強化した味付きの水分補給物を与える。
  • ストレスや FLUTD のリスク因子を軽減するような対策は突発性膀胱炎の猫にも与えることができ、次のようなものが含まれます。
    • パズルフィーダーを使ってフードを与えるなど、おもちゃを使って遊んだり、運動したりする時間を設ける。これにより、理想的な体調を維持し、その他のリスク因子が低下する可能性がある。
    • 複数の動物を飼っている場合は、十分な数の道具(給餌器、給水器、清潔な猫用トイレ、おもちゃ、空間など)を用意する。また、簡単にアクセスできる道具(シニア猫が出入りしやすい猫用トイレなど)を設ける。
  • 猫では、ストレスに関連すると思われる不安への栄養学的管理の検討は限定されています。
会話の手始め

「あなたの猫は特発性膀胱炎です。つまり、他の下部尿路疾患ではありません。栄養や環境を改善して水分摂取量を増やし、理想的な体調を維持し、ストレスなど他の危険因子を減らすことで、愛猫の臨床症状を軽減できるかもしれません」

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追加のリソース

Sparkes, A. (2018). Understanding feline idiopathic cystitis. Vet Record, 182(17), 486. doi: 10.1136/vr.k1848

Hostutler, R. A., Chew, D. J., & DiBartola, S. P. (2005).Recent concepts in feline lower urinary tract disease. Veterinary Clinics of North America: Small Animal Practice, 35(1), 147–170, vii. doi: 10.1016/j.cvsm/2004.08.006

Westropp, J. L., Delgado, M., & Buffington, C. A. T. (2019).Chronic lower urinary tract signs in cats: Current understanding of pathophysiology and management. Veterinary Clinics of North America: Small Animal Practice, 49(2), 187–209. doi:10.1016/j.cvsm.2018.11.001